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2026.02.13
お知らせ
「えどがわ伝統工芸産学公プロジェクト」第23回新作発表会レポート

江戸川区と女子美術大学が連携して取り組む「えどがわ伝統工芸産学公プロジェクト」の第23回新作発表会が、2026(令和7)年1月17日(土)・18日(日)にタワーホール船堀で開催されました。
会場には、学生と区内の伝統工芸者が共同制作した作品39点が展示され、来場者に向けて成果を紹介しました。工芸者や学生らの声とともに、発表会の様子をお届けします。
23年続いた、伝統工芸と学生の協働の集大成
「えどがわ伝統工芸産学公プロジェクト」は、江戸川区内で活動する伝統工芸者の技術と、女子美術大学の学生によるアイデアやデザインの力を掛け合わせ、現代のライフスタイルに寄り添う、新しい伝統工芸品を生み出そうという取り組みです。

えどがわ伝統工芸産学公プロジェクトは2003(平成15)年度に始まり、今年度で23回目を迎える息の長い試みで、08(平成20)年にはグッドデザイン賞も受賞しています。最終回となった今回は、制作に携わった工芸者や学生に加え、これまでの歩みを見守ってきた区民や関係者が会場を訪れ、長年続いてきたプロジェクトの節目を共有する場となりました。

会場内に設置されたボードには、プロジェクトの23年間の歩みと共に、どのような商品が制作されてきたか記録されていました。試作品まで含めると、1000点以上ものプロダクトが誕生しています。
工芸者が語る、学生との共同制作で得られたもの
参加した工芸者を代表して、プロジェクト創生期から継続して関わってきた4名の方々にお話を伺いました。
型小紋 三橋京子さん

「2003年の第1回に参加した当時は、つくったものをどう販売するかという販路の課題を抱えていました。しかし、当プロジェクトから誕生した型小紋の絹手袋が、10年以上続くロングセラーになったり、布張りのハガキが美術館で販売されたりと、従来の枠にとらわれない学生の発想によって、新しい可能性が開かれました。内にこもっていては誰にも知ってもらえません。世の中にアンテナを張り続けることの大切さを、このプロジェクトを通して実感しています」
江戸硝子 中村弘子さん

「学生の発想力で強く印象に残っているのが、色被せ硝子に切子で星座を表現した『ほしめぐり』というグラスです。夏にも冬にも合うネーミングとデザインには、感心させられました。人気が10年以上続いており、『私の星座をつくってほしい』といったオーダーが入ることもあります。若い方たちの感性に学びながら、これからも日常の暮らしの中で長く愛され、一人ひとりの心に寄り添う器を作り続けていきたいと思っています」
漆芸 山口敦雄さん

「プロジェクトで学生たちと関わる中で、ダチョウの卵や繭玉など、思いもよらない素材を次々に持ってくることに大きな刺激を受けました。私自身、漆は木に塗るものだと思い込んでいたことに気づかされたのです。特に印象に残っているのが、折り鶴に漆を塗ったピアスです。発表会では目の前で作品が売れ、学生が喜ぶ姿を見て私も感動を覚えました。外国人の学生からは出身国の技法を教えてもらうこともあり、ものづくりに対する視野が広がったのを感じています」
江戸風鈴 篠原由香利さん

「学生と一緒に商品化に取り組む中で、作り手の感覚と、実際に使う人・買う人の感じ方の違いと向き合い、そこに多くの発見がありました。新しいデザインが生まれるのを見て、風鈴にはまだまだ可能性があると感じています。学生たちの発案によって、染料をはじめ新たな材料を試す機会にも恵まれました。その経験を通じ、発色や堅牢度など、私たちが使ってきた素材や伝統技法が、なぜ長年受け継がれてきたのかという理由も改めて実感しました。このプロジェクトに参加したからこそ得られた経験です」
大学教育の立場から見た、産学公プロジェクトの意義
このプロジェクトの立ち上げから運営まで、長年にわたって学生たちに伴走してきた、女子美術大学の後藤浩介教授にもコメントをいただきました。
女子美術大学理事 後藤浩介教授

「一般的な授業では、商品コンセプトを考えてデザインし、プレゼンテーションによる評価で終了となることも多く、実際にものを作るプロセスや、その大変さまで経験できる機会は限られています。しかしこのプロジェクトでは、学生たちは自身が描いた一本の『線』が工芸者の協力を経て形になり、世の中に出ていくまでの流れを実体験できました。工芸者というものづくりのプロが学生を粘り強く指導し、一緒に手を動かしながら制作を進めてくださったことに感謝しています。3Dプリンターなどの技術が進む今の時代だからこそ、素材と格闘しながら手で作る経験の価値を、次世代のものづくり教育に活かしていきたいと考えています」
展示作品に寄せられた、来場者の声

会場には、伝統工芸に興味を寄せるさまざまな来場者が足を運んでいました。展示作品をじっくりと鑑賞する人がいる一方、会場内に設けられた「えどコレ!」のポップアップストアをのぞき込み、買い物を楽しむ人の姿も見られました。
習い事の帰りに立ち寄ったという川崎市在住の女性は、以前から伝統工芸に関心を持っていたといいます。
「光が映り込む様子がとてもきれいな江戸硝子の器が印象的でした。学生さんと職人さんが一緒に制作した作品であることを初めて知ったのですが、未来に伝統を残そうという素敵な取り組みですね。これからも応援したくなりました」
江戸川区在住の、インドにルーツを持つ男性は、区内に掲示されていたポスターをきっかけに来場した、と話します。
「風鈴など、私の故郷にはないユニークなアイテムがたくさんあって面白かったです。美しい模様が入った印鑑ケースや、色のきれいな扇子がとても日本らしいと感じました。江戸川区にある工芸品をもっと知りたくなりました」

江戸扇子の松井宏さんと女子美術大学1年のシュゴウさんの共同による作品「暑い」「幽霊」「飴林檎」。
また、家族そろって会場を訪れたファミリーにも作品の感想を聞きました。
「ずっと江戸川区に住んでいますが、区内にこんなにも多くの工芸者がいるとは知りませんでした。あらためて地元を知る非常によい機会になりました」(父)
「一番気に入ったのは、流し染めの老眼鏡ケースです。バッグの持ち手につけて、すぐに取り出せるアイデアに強く共感しました。色彩も美しく、デザインも洗練されていて、ぜひ使ってみたいですね」(母)
「どの工芸もきれいでしたが、特に印象に残ったのは風鈴です。私の知っている伝統的な風鈴とは違って、一つひとつ個性があって楽しい気分になりました」(娘)
クロージングセレモニーで語られた、23年の歩みと感謝
最終日の17時には関係者が一堂に会し、クロージングセレモニーが行われました。当プロジェクトを主導してきた江戸川区産業経済部の野口千佳子部長は、区切りを迎えた思いを次のように語りました。

「本プロジェクトは23回にわたり実施され、今回が最後の開催となります。これまでに1351点の作品が生まれ、2151人の学生が工芸者の皆さまと協働してきました。伝統を大切にしつつも、交流を重ねながら新しい表現に挑戦してきたことが、長く続いてきた理由だと感じています。最後となるのは寂しい気持ちもありますが、今回が関わってくださった皆さまにとって記憶に残る会となれば嬉しいです。今後も形を変えながら、江戸川区の工芸者の技と関われる機会を考えていきたいと思っています」
39作品から選ばれた、今年の受賞作
今回は39作品の中から、来場者の投票による「えどがわ賞(最優秀賞)」と、女子美術大学の教員により選考された「教員賞(優秀賞)」2点が選出されました。
えどがわ賞(最優秀賞)
作品名「月光」江戸硝子
工芸者:岩渕道子 デザイン:志村江栞果

コンセプトは「湖面に映る月を覗いたら、その中にも月が浮かんでいた…そんな、夜」。側面の円を覗くと、反対側の円が無数に映り込みます。2色被せ硝子が生み出す色の深さと奥行きによって、夜の幻想を表現しています。
受賞者・女子美術大学 志村江栞果さん
「私の提案したデザインを再現するために、岩渕さんは真剣に向き合ってくださいました。制作を進める中で、積み重ねてこられた経験や技術を間近で見ることができ、ガラスを吹く身としても大変勉強になりました。貴重な経験をありがとうございました」
受賞者・工芸者 岩渕道子さん
「志村さんはご自身もガラスを吹かれていることから、色選びに妥協しない姿勢など強い思いが伝わってきました。若い世代から、私たちが忘れがちな初心を改めて思い出させてもらった気がします。今回でプロジェクトはひと区切りですが、学生と共同開発する意義を強く感じました」
江戸川区・江戸川区産業経済部部長 野口千佳子さん
「志村さんの作品は、覗き込むと浮遊感のある世界が広がる仕掛けがあり、来場者の皆さんが驚いたり笑顔になったりする様子がとても印象的でした。ひとつの作品から豊かな体験が生まれ、人々の間に広がっていくことを強く感じさせる素晴らしい作品でした」
教員賞(優秀賞)
作品名「彩り-IRODORI-型小紋のお弁当巾着袋、バッグ」型小紋
工芸者:三橋京子 デザイン:井指 楓

三橋工房の華やかな模様の生地を活かしたいと考え、お弁当の具材一つひとつをパッチワークにしてあしらった作品。このバッグ・巾着を使うことで、日常にささやかな彩りが生まれれば、という願いが込められています。
受賞者・女子美術大学 井指 楓さん
「自分のアイデアを商品として形にするのは初めてでしたが、工芸者の三橋さんや仕立てを担ってくださった方など、多くの方の協力を得て完成しました。このような評価をいただき、とても嬉しく思います。今回の経験を今後の制作にも生かしていきたいです」
受賞者・工芸者 三橋京子さん
「苦労もあったと思いますが、工房で使っている小紋柄を生かした楽しい作品になりました。こんなお包みがあったら、お弁当を持っていく時間そのものが楽しみになりますね。プロジェクトはひと区切りとなりますが、機会があればまた学生の方々とご一緒できたらと思います」
女子美術大学理事・後藤浩介教授
「お弁当の包みを開く前のワクワク感が的確に表現されていたと思います。外包みと中の柄にストーリー性があり、型小紋の魅力と井指さんの発想が自然に一体化していました。 “包む” という行為が生活に与える彩りをあらためて感じさせてくれる作品です」
教員賞(優秀賞)
作品名「ゆるり」染色
工芸者:草薙惠子 デザイン:尾江穂乃華

ゆったり泳ぐクジラをモチーフに、軽くて持ちやすい形に仕上げた子ども向けのショルダーバッグです。お出かけの時間にそっと寄り添うお供になるように、という願いが込められています。
受賞者・女子美術大学 尾江穂乃華さん
「長期間にわたり、草薙さんとたくさんの話し合いを重ねながら制作できたことは、このプロジェクトに参加したからこそ得られた経験でした。試行錯誤を通じて、自分の表現の幅が広がったと感じています。今後の制作にも生かしていきたいです」
受賞者・工芸者 草薙惠子さん
「クジラのお腹の表情など細部に工夫を凝らす中で、素材や表現方法について本当にいろんなやり取りをしました。おかげで納得のいく仕上がりになったと思います。子ども向けの作品でしたが、会場では大人の男性からの反応もあり、今後の可能性を感じました」
女子美術大学・荒 姿寿准教授
「クジラというモチーフに対し、尾江さんのデザインと草薙さんの高度な技術がよく調和していました。素材や色を丁寧に検討したことが完成度の高さにつながっています。細部まで配慮が行き届いており、子どもから大人まで幅広く愛される作品だと感じました」

クロージングセレモニーに参加した全員による集合写真。
受賞を通して語られる、学生たちの実感
プロジェクトに参加した学生たちは、工芸者との共同開発を通じて長い時間、ものづくりに向き合ってきました。受賞した学生3名に、作品完成までの経験と受賞を通して得た実感を語ってもらいました。

(左から)えどがわ賞を受賞した志村江栞果さん、教員賞を受賞した井指 楓さん、尾江穂乃華さん。
えどがわ賞 志村江栞果さん
「大好きな硝子をより深く学ぶチャンスだと思い、このプロジェクトに参加しました。最も苦心したのは、内と外で色を変えた被せ硝子の美しさをどう活かせるか、という点です。職人さんと会話する中で、これまで蓄積された技術の凄みを感じたほか、お客様との関係性や社会で硝子がどう見られているかといった視点にも触れることができ、作り手として考えるきっかけをたくさんいただきました」
教員賞 井指 楓さん
「入学前からプロジェクトのことは知っており、ぜひ参加したいと思っていました。型小紋の目を引く柄をどう生き生きと見せるか悩みましたが、三橋さんと何度も話し合って独自性を出せたと感じています。これまでは頭で想像したものを自分のために作ることが主でしたが、お客様に手に取っていただくための商品を考えたこの経験で視野が広がりました。将来の仕事にも活かしていきたいです」
教員賞 尾江穂乃華さん
「テキスタイル専攻としてより学びを深めたいと思い、勇気を出して参加しました。クジラのモチーフは、草薙さんならではの墨流し染めを活かすためのデザインは何か、という発想から生まれたものです。工芸の魅力を伝えながら商品としての実用面も考えるのは難しく、何度も壁にぶつかりましたが、学校の授業では気づけない発見がたくさんありました。忘れられない学びになったと思います」
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23年にわたり続いてきた、えどがわ伝統工芸産学公プロジェクトは、今回で最後を迎えます。工芸者、学生と教育機関、行政がそれぞれの立場から向き合い、対話と協働を重ねてきた経験は、作品としてだけでなく、人の中にも確かな学びを生み出しました。ここで育まれた視点や関係性は、産・学・公それぞれの現場で、これからのものづくりや地域の在り方を考えていくうえで、ひとつの礎となっていくのではないでしょうか。

◆プロジェクト概要
「えどがわ伝統工芸産学公プロジェクト」第23回新作発表会
日時:2026年1月17日(土)、18日(日) 10時~17時
会場:タワーホール船堀(江戸川区船堀4丁目1番1号) 1階展示ホール1
https://www.city.edogawa.tokyo.jp/shigotosangyo/project/event/23shinsaku/index.html
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https://edocolle.jp/onlineshop/